私    部    さ    ん     と     君    塚    く    ん


「どうでもいいよ」
 冷めた目で世界を見下ろす君の手はいつだってひどくつべたくて、解っているはずなのにそれに触れるたびにどうしようもなく居た堪れない気持ちになる。理性が揺さぶられ、感情が乱されて全ての価値に自信がもてなくなってくる。そして何もかも投げ出したくなって逃げ出したくなって、やがてその感情すらも枯れてどうでもよくなる。最後に心に残るのは奇妙な安心感と小さな小さな虚無感。

 誰かにとっての幸せも安らぎも陽だまりも全部、私部にとってはごみみたいなもので、表向きの寛容さは許してるからじゃなくて最初から諦めてるんだと気がついたのはつい最近。期待しないから裏切られないと考えた人が正しいのか悲しいのかなんて良識のない僕には区別がつかない。

 私部のキスは夜の雪を彷彿させる。暗闇に静かに落ちる冷たさ。
 掠めるだけのキスはいつも冷たくて、唇には何も残らない癖にそれがどうしようもなく苦しい。

「きさべ」
 こんなにも近くにいるのに、君を呼んだ僕の声が君に届いているのかも解らない。


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