この蒸し暑い日に、モモは涼しい顔でアールグレイを飲んでいた。独特の香りが室内に広がる。
「暑くないの」
 唸るような声で非難する。モモのティーカップからはわずかに湯気が立っている。
「だってアイスティーだと香りが逃げちゃうんだもん」
 モモは当たり前のような顔をして言った。それに、と諭すように続ける。
「夏こそ熱いものが食べたくならない?」
「いや、無理」
 俺はキンキンに冷えたラムネを流し込んだ。
 こんなことですら、俺たちは意見が一致しない。

 俺たちは好みも価値観もまるで違っていて、一緒にいること自体不自然だった。それでも適度な距離を保ちつつ今に至る。
 単純に相容れない存在ならまだ楽だっただろうけど、面白いから簡単には離れたくない。ときどき面倒だけれども案外楽しい。
「そうだ。モモ、大福ー」
 ラムネと一緒に買ってきたそれを揺らすと、モモの表情が明るくなった。
「食べるっ」
 弾んだ声に思わず口元が緩む。モモは甘いものが大好きだ。

 アールグレイと大福とラムネ。有り得ない組み合わせだって構わない。
 だって、俺たちがそうだから。
「夏目、なんで嬉しそうなの?」
「さぁね」

 この感情に、名前はまだない。
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