side:Y

「たとえば、明日死ぬとしよう」
「随分とまぁ、唐突ねぇ」
「人生ってのはね、大体が唐突なんだよ」
 諭すような口調でひかりが言った。彼女がこういうことを言うのは珍しくない。
 普段のゆるさからは想像できないほど毒のある物言いをするところもひかりらしいと思ったし、そういう発言も嫌いじゃなかった。
 けれど、本心を見透かされたような、隠しているものが明るみに出されるような気まずさというか、焦燥感みたいなものがある。ような気がする。

「それで?世界が滅亡しちゃうのぉ?私たちが死んじゃうのぉ?」
「どっちだっていいよ、紫に任せる」
 自分で仮定を振っておいてよく言う。
「じゃあー明日、合宿に行く前にプログラムに巻き込まれて死んじゃうってのはどぉ?現実味あるでしょお?」
「その口調が嘘くさい」
 ひかりが乾いたようにカラカラと笑った。ひかりは素直だ。



side:H

 夕方の公園には、小学生どころか幼稚園児だっていなかった。公園が特別好きなわけじゃないけれど、人のいない場所は落ち着く。
 学校なんて必要なかった。私にとってそれは数多くの子ども達を収容する箱にしかすぎなかった。
 繋がりなんていらなかった。なくなったとき、後悔するから。

 私がブランコに座ろうとしている間に、紫はジャングルジムのてっぺんにひょいひょいと上がっていた。
 ねぇ、そこから見える景色はどう?
 私は期間限定のジャムが入ったいちごジュースを飲みながらぼんやりと空を見上げた。こういうくだらないことに付き合ってくれるのは紫だけだったし、紫ならつき合わせてもいいかなーって思う。
 あっちはオレンジジュースを飲みながら、ジャングルジムのてっぺんで脚をぶらぶらさせていた。

「明日なんて、ないわ」
 紫はたまに凍りついたような瞳に口元だけ無理に笑顔を浮かべたような奇妙な表情を見せる。きっと無意識に。でも、自然に。
 その表情はとても違和感のあるものだけれど、私はそれが本当の紫のような気がしている。聞いたことはないけれど。
「実際は毎日が連続しているのよぉ」
「……そうだね」
 人は未来に過度な期待をする。あるいは勝手に失望する。
 それは私も紫も同じだ。


理 解 を 分 解 し て 正 解


side:Y

 私たちは人とは違うと思っていたけれど、ひかりはそれを隠そうとはしなかった。  私は隠しながらその実醜態を晒し続けていることに、気がつき始めていた。
 その点で私とひかりは違っていた。
 ぬるくなったオレンジジュースはなんの味もしない。甘さも酸味もどこか薄っぺらかった。

 ひかりは暮れていく太陽に良く似ていた。鈍い斜陽が彼女を照らして包み込む。
「ひかりは夕焼けに似ているわぁ」
 そう言うとひかりに笑われた。
「どうして?」
 だって、貴方の作る夜はあたたかい。
「あ、もしかして、ひかりだけに?」
「そう、ひかりだけに」
 一緒にいて安心できる暗闇もあるのよ、ねぇ。知らないでしょうけれど。


「それなら紫は朝焼けだね」
「朝焼け?」
 首を傾げてみせるとひかりが空を仰いだ。
「輝く星空を包みこんで、新しい一日を見せるんだ」
「ふぅん……」

 偽り誤魔化し続けていく詐欺師まがいの三流役者を、きみがどんなふうに見つめていたのかなんて知らなかった。
(知ろうともしなかった。)
 それでも、私たちは満たされていた。
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