スカートは長すぎても短すぎても正直ださい。中学生だからメイクはアイラインちょっとだけにして、爪磨きとか枝毛のチェックとかは欠かさない。クッキー食べながら流行のドラマとか見て、ファッション雑誌に載ってたあのワンピが可愛かったから買おうかどうしようかってまだ迷ってる。
 男子がいるところではちょっとだけかわいめの声意識して、休みの前には彼氏か友達と土日どこに行くか約束入れて、友達とはまたカラオケとプリ撮るコースでお小遣い入ったらお買い物かボーリング行こうかって話になった。多分明日も来週も来月もそんな感じの、ありふれた中学校生活は気づいたら折り返し地点を過ぎていた。
 でもたまに、思い出したように息ができなくなる。
 愛され続けている自信が欲しい。


 言 っ ち ゃ っ て る ん だ か


「千花ちゃんって器用だよね」
「いや全然不器用だよ!!」
「そうじゃなくって」
 そう言って目の前でガトーショコラを崩していた小春ちゃんはくすくすとおかしそうに笑った。そこで手先の話じゃなくて人間関係のことだと気づく。落ち着いた雰囲気の喫茶店の古そうな大時計はそろそろ4時になろうとしていた。
 と言うか小春ちゃんが不器用なんだと私は思う。小春ちゃんは大人しくてゆったりしてる癖に、空気を読むとかオブラートに包むとかいうことをしないから女子の中で浮く。小春ちゃんってちょっと感じ悪いよねって、言われちゃう。だから頭悪そうなギャルみたいのに捕まって当てつけのようにいじめられている。ちょっと振る舞いを控えれば全然可愛くなれるのに、勿体無いというかもうちょっと頑張ればいいのにって思ってしまう。
 でも、小春ちゃんは別に可愛くなくても、小春ちゃんにはさっちゃんと鬼頭くんがいる。二人の話をしているときの小春ちゃんはすごく自然で、リラックスしてて楽しそうだ。見せびらかしているわけじゃないんだけれど、だからこそ余計に、小春ちゃんが愛されていることを思い知る。私はそれなりに頑張らないと一人の男の人にもちゃんと、愛してもらえないのに。世の中はなんだか不公平に出来ている。
 小春ちゃんのバレッタがお店のライトに反射して宝石みたいにキラキラ光った。いいな、お姫様みたい。
「んー器用かなぁ」
 私は生返事だけ返して小さく切り分けたチーズケーキを口に運んだ。チーズケーキも嫌いじゃないけれど本当はどら焼きの方が好きだったりする。さっちゃんと家族以外には誰にも言ったことないけれど。
「私たまに思うんだけれどね、そういうのって疲れちゃわない?」
「なんで?」
 手元で携帯が鳴って短い会話が一瞬途切れる。相手は案の定彼氏からのメールだった。いいや、あとで返信しよう。
 小春ちゃんがちょっとだけ努力すれば楽になれるんだよとは言わなかった。言ったって小春ちゃんは解ってくれない。でも、そうやって学校でいじめられたり休の日だけお気に入りのバレッタをつけたりしなくて済むのに。
「なんでだろう。水の中で息をするみたいな感じなのかな」
 それは、私のやっていることがすべての人達にとって苦痛なことだと言うことなんだろうか。自分を根底から否定されたような苛立ちと正しさの伝わらないもどかしさが視線を泳がせる。
「……小春ちゃんはもうちょっと、大人になった方がいいと思うよ」
 そうだね、と拍子抜けするくらいあっさりと、あっさりと小春ちゃんは頷いた。
「ふふっ、いつまでたっても子どもみたいだね、私。あーあ、このまま……大人になりたくないなぁ」
 そうやって間延びした風に呟くの、ずるい。
 手元の紅茶はもう冷え切っていた。


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