イヤフォンはいつの間にか外していた。
 繰り返し流れるロックは昔から好きだった曲で、ノリのいい音とちょっと行き過ぎた歌詞が凄くかっこいいと思っていた。
 いつの間に外したんだっけ。長いコードを無意味に指で絡めてみたりする。

「えーっ、七子ちゃんつよーい!」
 遠くから楽しそうな談笑が聞こえて顔をあげると、何人かの女子がトランプをして盛り上がってた。その中でも一際明るい笑顔に目を奪われる。
「あっ、ゆーとくんもババ抜きやらない?」
 目があって嬉しそうに名前を呼ぶもんだから、思わず視線を逸らしてしまった。


抜 け 落 ち た イ ヤ フ ォ ン か ら 流 れ 続 け る ラ ブ ソ ン グ


 星澤七子と言うクラスメイトがいる。
 馬鹿みたいに明るくて、いつも楽しそうで、でも授業中は眠そうで、放課後はもっとテンション高くて、学校行事ではいつも以上に頑張っちゃってて。
 星澤さんを見ていると若いっていいねぇ、とかじじくさいことを思ってしまう。俺だってまだまだ若いはずだが根本的なエネルギーが違う。
 星澤さんってなんか、見ているだけで飽きないというか、いないとどこか物足りないというか。なんというか。
 ……なんか、気になるんだよな。

「ゆーとくんは兄弟いるの?」
 そんな星澤さんは俺みたいな人間にも平気で話しかけてくる。そういうタイプは珍しい。
 たまに教室で話したり、こうやって一緒にコンビニに買出し行ったり、あっちは全然意識してないだろうけれど、俺はすっごく緊張する。なんでかわからないけど。
「その前に手を拭こうね星澤さん」
 あーあ、もうべたべたじゃん。その一言は辛うじて押さえた。
 星澤さんが食べてるのは最近一中でブームの血みどロールとかいういちごソースが異常に入ってるロールケーキだ。ただでさえソースが多くて食べにくいのに、少なくとも歩きながら食べるもんじゃない。コンビニから学校に戻るまでのちょっとの間待てばいいのに我慢できないらしい。
「えーっと……そこでいいや、座ろうか」
 通りかかった河川敷に二人で腰を下ろす。この季節は新緑が綺麗で草の匂いがすごい。天気も良くて適度に吹く風が心地いい。
 両手がべたべたの星澤さんにコンビニでもらったおしぼりを渡す。ありがとーと無邪気に笑う唇の端にジャムついてる。ああ、ほら、もう。
「七子はたーくんっていう弟がいるよ!」
「お、弟?!うっそ、意外」
「えー七子これでもおねーちゃんだよ!」
 年齢が違うとは言え、俺の姉とは随分違う。姉にも本当にいろんなタイプの姉がいるんだなぁとか思っていると、星澤さんが楽しそうな声をあげた。
「あ、ゆーと君見て見て!シロツメクサだ!」
 星澤さんの言う通り、誰が植えたでもない白くて小さな花が大きな河川敷一体を埋め尽くしていた。シロツメクサってなんとなく春だなーってイメージだったけれど今頃咲くんだ。毎日通学してても気づかなかった。
 星澤さんといると、空の高さだとか、夕日の落ちる速さだとか今まで気づかなかったことに気づけるような気がする。
「できたー!」
「ん?」
「指輪!昔やんなかった?」
 そう言って彼女はシロツメクサで作った指輪を俺に差し出した。
「え?」
「ゆーとくんにあげる」
 ふへへと自慢げに笑う彼女は可愛い。
「……んだよ」
 思わず笑ってしまった俺に星澤さんが「上手でしょ」と笑った。

 なんとなくこんな日がずっと続けばいいなぁと思ったし、漠然と続いていくと信じていた。
 中学3年になったばかりの暖かい春の日のことだった。
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