『でさ、実は○○ってオフ友だったんだよねー』 パーティメンバーの一人の発言に周りがわっと沸き起こる。オンライン上の関係が実はオフでも繋がってたって言う話。 『えええリア友とかすげええ』 『俺この前組ませてもらった^^>○○さん』 『へぇーほんとにあるんだwww』 友達っていうと大抵趣味が似通ってたりするから、こっちに長くいると割と良くある話のような気がしないでもないけれど。 俺はちょっとだけ面倒くさくなって、オンだのオフだので盛り上がるパーティを適当に切り上げてログアウトした。
う ち の ド ッ ペ ル ゲ ン ガ ー に つ い て そもそもオンラインでオフの話をしたりだとか、オンラインで知り合った人たちが次元を超えてオフの世界で会ったりだとかそういうのがあまり好きではない。単に社交性が低いだけなんだろうけれど。 というか、オンとオフがつながる可能性よりももっと低い、きっと奇跡に等しいくらいのがうちに転がっている。パソコンをシャットダウンした途端、ロフトベッドの下から良く似た声がふたつ、聞こえた。 「あれ? 雷、もうパソコンやめたの?」 「雷くんもテレビみよー」 稔と泉、赤の他人のドッペルゲンガーだ。体型も髪の毛も声色も、血縁関係を疑いたくなるくらい、本当によく似ている。 ・・・・・・君たちは、一体何者なんだい? ふいに浮かんだ言葉を飲み込んで、俺はベッドを降りる。 たまに頭をよぎるのは、もうすっかり忘れていたと思っていた古い古い思い出と、呪いのような疑問符ばかり。油断をするといつもバリアをはりそうになる自分がいる。奇跡のような双子を疑ってしまう自分がいる。 人とよく関わらないで生きてきた所為か、近づくのが、とても、怖い。 『怖くてもいいから、ゆっくり馴染んでいければいい』 昔、桜庭さんがこんなようなことを言ってくれた記憶がある。あの頃は桜庭さんですら怖くて、与えられた部屋に閉じこもっていたんだっけ。 桜庭さんの養子になって、楓さんがお世話をしてくれて、稔と出会って、泉ちゃんと出会って、少しずつ、少しずつだけれど、世界が広くなっていく。いつか、恐怖心なんて忘れてしまって、自分の意志で世界を広げていく日が来るのだろうか。 テレビでは手ごろでうまい料理の特集を組んでいた。四季折々、数量限定、意外なコラボレーション等々、手を変え品を変え、食に対してこんなに情を注げるのは日本だけなんじゃないかと狭い視野で考えてみたりもする。 そして持て余した意識の端で、君たちのことを考えながら明日の夕飯を悩んでいる自分がいる。 「ふふっ、雷くん楽しそう」 声につられて左を向くと、ドッペルゲンガーの女の子。目を見て話せる、純粋無垢で天使みたいな子。綺麗だからこそ、汚れていないからこそ、自分が毒を塗ってしまわないか酷く不安になる。 「・・・・・・そう?」 「うん! ご飯食べた後だけれど、おいしそうだよねっ」 目を逸らしても、彼女は怒らない。 明日の夕飯は泉ちゃんの好きなハンバーグを作ろうかな。 居候が増えるのも、夕飯のメニューを考えるのも、以前より苦手じゃなくなっているような気がする。ハンバーグで卵が必要になるし、デザートにプリンでも作ってみようかな。そしたら奴は文句を言いながらも全部食べてくれるかな。 右隣でクッションを抱えてうとうとするドッペルゲンガーをみて、俺は思わず笑ってしまった。 |